1. はじめに
コロナの影響で、製造現場での材料や部品供給の混乱は市場に大きな影響をあたえている。
特に製造コストは、人手不足による人件費や原材料のコスト及びエネルギー価格の高騰で対応に苦慮しているが、同時に政治的要因による製造拠点の変更も見直しの要求が出ている。
大量生産をする半導体やスマートフォンのような製品などでのコスト削減方法は日本では望めず、海外の量産メーカーと同じ土俵に上がってのコスト競争では経営が難しい状況になっている。
現状のコスト競争では、人件費や部材経費の削減が求められるが、それは品質上の問題を含む可能性がある。特に製造現場でもISOによる規格が厳格に求められている状態では、品質にしわ寄せが及ぶ。厳密な規格のもとでは規格以上のものづくりは難しいうえ、進化する設計にも対応できにくくなっている。
現状の人件費・部材コストを直接見直しするだけでは、経営にも影響を与えることになる。技術の進歩に対して技能は停滞気味で、特に年配の熟練管理者やパートの人々が、コロナの影響もあって現場から離れて行っている。人材の不足のみならず、作業員自体不足している現状に加え、経営上のリスク管理に伴い、一部海外から国内に製造ラインが移転されては、ますます人手不足となる。
人件費は人手不足によって上昇し、コスト増加要因になるため、生産性をより改善させる必要がある。同様に、部材コストの増加も問題となる。
生産ラインにおける見直しは、コストと品質の改善が可能になる。
実装ラインでは、両面リフローの後、フローはんだとロボットはんだ、または手作業が続く。特に手作業は熟練の作業者が減っており、多くが海外に移転した状態であるが、この作業品質には問題が多く、国内に持ち込まれる製品のリコール(発火・発煙など)が毎週のように数十件、発生している。
両面リフロー → フローはんだ付け → 後付け →検査修正 → 出荷
国内生産でもっとも人手がかかるのが、フローはんだの部品挿入である。この部分の自動化が重要になるが、見本市でも海外メーカーの出展が見られる。
2. 挿入部品のリフロー化
① 挿入部品の手作業やロボットによる作業
② 多ピンのコネクター等の作業
単品リード部品の挿入はさほど問題ではない。はんだ印刷の反対側からの部品挿入はホール内のはんだがリード先端に付着するが、温度プロファイルが適切であれば、ぬれ性などに問題はなく、必要であれば少しホールにはんだの印刷位置をずらして、部品挿入時のリードが判りやすくすると良い。基板上面にはんだを印刷供給し、その上から部品を挿入する場合は、はんだ付け後の検査が楽であるが、多ピンリード部品でははんだ形状が大きく崩れ、はんだボールなどの原因になりやすく、慣れが必要となりそうである(図1)。
特に、基板に密着挿入される部品の下や、ホール内のはんだ状態の確認が必要である。部品下に印刷されたはんだは完全に溶融し、ヒール内にぬれ落ちるが、部品裏にはフラックス残渣が付着するため、耐熱性の高いフラックス(流動性の鈍いフラックス)は見直した方が良い(図2)。
また、はんだの印刷形状は自由で、はんだボールが発生しない程度に、ホール内に充填できるくらいに広く印刷供給する。薄く広く印刷するほうが熱反応が速く、ぬれ性が良い(図3)。
挿入部品のはんだ付け状態(ボイド、ブローホール、ぬれ不良など)の確認はX線や断面観察が必要になるが、密着挿入された部品の良否確認は特に量産現場での外観は確認できない。このため、部品側からはんだを供給するとリード側に広がるフラックス残差の形状で良否を判定することができる。
図1
図2
印刷の厚みは他の部品に合わせるので、ランドをはみ出し広く印刷し、はんだの必要量を確保する。クリアランスが広い場合も、はんだの印刷量多くする
図3
はんだ量が多い場合はリフロー炉のヒータの操作で調整する。多くの場合で高温長時間の操作になりがちであるが、これが品質劣化の原因になってしまうので、過剰な加熱を抑えるべきである。基板を通してホール内の温度は、はんだの溶融温度+10 ℃程度で良く、溶融時間のほうが重要となる。また、プリヒートによってはんだの流動性は多少変化するが、炉の性能特性で対応は異なるので、でき映えで判定する。
3. 耐熱性の低い部品のはんだ付け
フローはんだは、棒はんだを1ton~1,5ton/月ほど、はんだ槽で溶融するが、大半はドロスとして廃棄されてしまう。一部は回収し、再処理して使用されるものの、一日中、大量のはんだを溶かすため、材料費と炉の電気代はかなりのコストになる。N2リフローの電気代は200 万円/ 年といわれているのと比較しても、かなりのコストになる。
また、はんだ槽の取り扱いも大半の現場は雑になっており、かつ、熱いことから清掃も危険性が伴う。
特に、部品の耐熱性の問題は、治具を必要とする場合と必要としない場合があるが、共に炉の下部ヒータを活用するのが重要である。
比較的高い温度の部品は、下部ヒータを高く設定し、リード面のはんだが十分溶ける温度まで上げる。下部の基板面の温度は245℃前後となる。上部ヒータの一部をはんだの融点以上(240℃前後)にすることによって加熱時間を短くすることができるが、さらに短くする場合は上部ヒータすべてを使って調整する。しかしこの場合は、基板上面の部品への熱影を与えない範囲とする。
撚り線の皮膜は100度以下になるので断熱が必要であるが先端のはんだ付け部は短時間高温での処理が必要、高温であれば皮膜が溶ける前にはんだ付けは可能である(図4)。
図4
細い撚り線は、先端部分から熱が逃げてしまい、はんだが溶ける温度まで上がらないので、熱風が逃げないよう風を受け止める工夫が必要である。
特に最近は、部品の微細化によってリード線も細く、かつ、皮膜線の先端のはんだ付け部も短く、ボットでのはんだ付けも難しいため、品質にばらつきが出てしまう。
はんだ付け作業はコスト面で検討する余地があるが、少量の多品種では治具のコストが高くついてしまう。逆に部品は、品種が少なく大量生産されるので、治具の設計がポイントとなって海外との競争に耐えうる可能性が出てくる。
図5のように、挿入部品が基板に密着するような場合は熱影響に注意が必要で、基板面から浮かせる処置が必要である。逆に大きな電解コンデンサは部品に熱が取られるので別途後付けとする。給熱のみは現場ではできない。
現在、実験で使用しているリフロー炉は遠赤+エアの小型炉のため、かなり複雑な温度設定でも可能となっているが、大型のエアリフロー炉は機種によっては自由なヒータ設定が難しいものもあるので、一度実験で確認すると良い。
また、はんだ材料(フラックスの熱反応速度)によっても溶融のタイミングが異なり、加熱の影響を抑えるために基板を流す速度が重要になるので、品質上、扱いが難しくなる(図6)。
図5
図6
耐熱性の特に低い部品・皮膜などではフラックスの熱反応の速いものが重要で、良否判定の検査にも影響がある。
本来、鉛フリーはんだは鉛はんだと融点が異なる程度で部品・基板に対してプリヒートは同じである(部品・基板は同じ材質)。そうであれば、鉛フリーはんだの温度プロファイルは鉛はんだと同じになり、既存規格よりもコンパクトな温度プロファイルとなる。
図7の基板は、2005 年に実装され、製品として市場に流れていたものである。フローはんだでも同じで、220 ℃の溶融はんだも250℃の溶融はんだでもプリヒートも浸漬時間もさほど変わらずに実装している。また、金属組成以外、フラックスも含めて実装条件は鉛はんだと同じである。同様に、糸はんだにおいてもこて先温度が330℃での作業では、はんだは同じタイミングで溶ける。加熱条件が同じであれば、各社のはんだはフラックスのみの差になるが、鉛フリーはんだも鉛はんだも、同じ取り扱いが可能である。
図7
フローはんだの問題も、基板の搬送角度が適切でないのにすべてのメーカーはんだ槽が5 度に固定されているが、鉛はんだでは3度前後で基板を流していた。これは改善されたそうで、他の国内メーカーでも検討されるようである。ただし、搬送角度が低いと、基板とはんだの接触面積が広くなり、基板への熱量が大きくなるので、フラックスへの熱影響でブリッジが発生する可能性があり、条件出しに微調整が注意である。
はんだ槽の基板搬送角度を2度に変更した工場があるがスルーホール上がりは従来より良い結果が出ている。
また、現状、少なからぬメーカーでは耐熱性の高いパレットを使用しているため、はんだの熱が治具に取られてしまい肝心の基板に伝わりにくく、ホール上がり不足となる事例が見られる。治具の材質や厚みなどを見直すべきで、できれば基板と同じ熱伝導率の材質が良い。
不良削減には、熱伝導率が良く、薄いパレットが良いが、耐久性に難点があるのでパレットの数を多めにし、熱による反りを抑えることが必要となる。不良率削減との兼ね合いである(図8)。
図8
フローはんだは、難しいはんだ付けで不良率もパーセンテージで発生している。単にパレットの図面を引いた加工では不良率は削減できず、現場での立ち会い指導・提案を含めて、はじめて不良率を改善することができる。特にこの事例のメーカーは難しい案件の依頼が多いので現場での確認を重視しているが、この分野は日本でも遅れている技能だ。
リフロー温度プロファイルについては、一部、二十数年前から鉛はんだと同様の形状を用いている大手企業もあるものの、いまだに既存の温度プロファイルを用いて品質改善ができていない協力会社が多く見られる。せっかく温度プロファイルを変えて改善することができたのにもかかわらず、後からの担当者に元に戻されている現場も多くある。現場を理解していない発注元の指示である。
4. おわりに
筆者は海外(ヨーロッパ、メキシコ、中国、東南アジア、台湾、韓国)で数千のラインに立ち会い改善活動をしてきているが、大半が2~3日でその場の問題と指導も含め、改善してきている。
これらのことから、日本におけるはんだ付けに関しては工法の変更は特に問題ではなく、コストの改善はできる。実際、すでに一部の海外工場では実施され、成功している。
なお、技術系のセミナーは多くあるが、実際の流れに沿っての現場に関するセミナーは少なく、高度な設計に対しては現場の経験不足で対応できていない。
大手企業が設計から現場まですべてを自社で行っていた頃には、様々な事例やトラブルが協力会社にも指導・伝えられていたが、現在では他社の情報は入ってこず、自社のみで対処しなければならない状況である。他社(特に海外)へ製造を委託している形態では問題は他社(他者)のこととして片付けられている。
事故につながる情報に関しては、各社の立場を離れて、現場も含めた議論やセミナーの機会を設けて現場力を高める必要がある。特に規格に対しては、基本原理を抑えた上で、もっと柔軟に対応する必要がきている。
<参考URL>
1) https://musubi-japan.org