1. はじめに
最近、製造現場が一部、国内工場に回帰してきたものの、製造現場を指導できる熟練技術者が引退してしまった現場が多く、量産現場の問題は大きい。特に現場の担当者の交代によって現場の改善が停滞し、加えて部品の微細化と高度設計が求められていては、手直しも難しいため対応に遅れが出ている。そこで今必要なのは、「はんだ付け本来の原理を現在の規格の解釈へと広げること」である。
今回の実演セミナーの趣旨は、現場経験が浅い生産技術者にも簡単に現場指導できる検討方法を見つけるためのものとした。簡単な手作業によるリフローの評価・確認方法を体験してもらい、現場での改善活動に役立ててもらおう、という狙いから、以下のことを確認していただいた。
① 温度プロファイルの作成方法
温度プロファイルはその波形(プリヒート時間)ではなく、フラックスの劣化を抑えるようにし、各ヒータの操作方法を検討する。
② 作成した温度プロファイルの評価
温度プロファイルの数値管理のみではなく、出来映えも評価に加える。
③ 紙を使ったマスクの作成とはんだ印刷
リフローの実験では、メタルマスクの手配がネックになるため簡単な実験(時間と経費)が行われにくいが、基板をカラーコピーしたものをメタルマスクの代わりに使うことができる。1枚の紙で数多くのパターンを検討できるのである。
④ はんだ付けの評価方法
(1)フラックス残渣の形状、(2)フィレット表面の滑らかさ、(3)フィレット光沢、(4)ぬれ広がり
はんだの印刷は、基板をコピーして、その用紙のランド部をカットしメタルマスク代わりにすることができる。印刷の上手・下手ではんだ量がばらつき、ぬれ性を確認しにくい。なお今回は、短時間の手作業による慣れ・不慣れの差が大きく、印刷量のばらつきが大きかったため、評価対象不足の面があった。
2. 温度プロファイルの作成方法
1. JEITAの温度プロファイル
■ 事例1
図1に示した温度プロファイルでははんだボールが一番の問題となるが、はんだ量の削減方法の他に、温度プロファイルでの対策も可能である。
はんだ溶融時の急激な温度上昇によって部品が強く基板側に吸着し、部品下のはんだを押しつぶすことで、はんだボールが発生する。いっぽう、はんだ溶融が緩やかであれば、はんだボールは発生しない。同様に、部品左右のはんだの溶融差で部品の片側にぬれ上がり、部品立ちやずれも起こりやすい(図2)。
つまり、急激なはんだの溶融を抑えれば、はんだボールなどは解消することができるのである。
(1) 対応方法の事例
・コンベア速度を落とす
・ヒータ温度の急激な差を抑える
(2) 他の対応方法
また、はんだの印刷形状や印刷位置、はんだ量などの実験で検討することが可能である。なお、図3に示したのは、部品ランド形状とマスク開口(はんだ印刷形状)のミスによるはんだボールである。
図1
図2
図3
2. 京都プロファイル(コンパクトな温度プロファイル)
■ 事例2
事例2(図4)に示したのは京都プロファイルの事例で、その特徴は下記の通りである。
・大手ユーザーでも10 年以上前から採用されている
・プリヒートでフラックスの劣化を抑られるため、ぬれ性やボイドが改善される(図5)
・融点通過時の緩やかなはんだ溶融でセルフアライメントが働きやすい
図4 フラックス残渣は部品側に凝集している
図5
3.「事例2」の下部ヒータを30 ℃上げた温度プロファイル
■ 事例3
図6は、上記の「事例2」の下部ヒータを30℃上げたものの温度プロファイルである。
図7のように、印刷がうまくいった場合は、はんだのぬれは良く、ブリッジもはんだボールも発生しないことがわかる。
図6
図7
4. はんだ(フラックス)量の少ない部品の温度プロファイル
■ 事例4
次の事例は、はんだ(フラックス)量の少ない部品の温度プロファイルである(図8)。
はんだ量(フラックス量)が少ないため、プリヒートではんだ粒子が酸化してしまい、溶融しない。いっぽうではんだ量の多い個所は十分溶融している。これらはプリヒートを短くすることで溶融させることができる。
微細な部品リードは、はんだ供給量が少なく、フラックスが上部ヒータの熱風で劣化しやすいため、プリヒート部の上部ヒータからの熱量を抑え、ぬれ性への影響を抑えることが必要である。
フラックスの劣化を抑えるために上部ヒータの1~3をOFFにして、そのぶん、下部ヒータの温度を高くする。下部ヒータは基板裏面の部品への耐熱範囲(250℃前後)以下までは自由に上げることが可能であり、基板下部表面250℃の温度まで(部品の耐熱性以下)は対応可能であり、基板上面の表面温度(240℃前後)ではんだが溶融するので、ぬれ性は確保できる(図9)。
図8 はんだ量(フラックス量)の多少がプリヒートではんだの溶融差に影響する。
図9
5. フロー部品のリフロー実験~温度測定ポイント
温度プロファイルの形状(プリヒート)の違いでぬれ性も変わる。また、断熱材の材質・形状・厚みなどで部品への熱影響も変わる、150℃以下では断熱効果は不十分で、放熱材が必要となる(図10)。
基板形状が異形の場合は、異基板との間に追加の断熱材を追加し、密封構造にすることで120℃前後に下げることができる。同様に、放熱材も形状やサイズ及び材質で100℃前後まで下げた実績がある。
図10
6. 断熱カバーの効果
図11に示したのは、断熱治具の有無による影響を実験したものである。
温度プロファイル条件は、(1)下部ヒータのみすべて300 ℃、(2)コンベア速度は0.37m/m、(3)部品の最低温度、とした。
なお、コンベア速度などの条件変更を調整することで135 ℃以下まで下げることも可能である。
図11
7. おわりに
実演セミナーでは、作業の上手下手ではなく作業方法から、フラックスの働きとそのコントロール方法を簡単に検証した。そして、実装基板の良否の判定につなげて量産工場の改善に役立たせることを目的とした。
多くの工場での工程検査では、装置の操作、及び数値管理のみで出来映えの評価はされていないため、同じ修正や市場トラブルが発生している。しかし最終的には、不良率とその種類の判定が判断の決め手となるのである。
・使用機材 : リフロー炉…アントム製『6116α』
・はんだ : べた印刷…(株)小島半田製作所
・基板 : 京都実装技術研究会作成(6層/ 4 層/ 2 層の多目的用途基板)