量産現場における鉛フリーはんだ実装

実装技術アドバイザー / 河合 一男

1. はじめに

最近、政治環境やコスト面から、日本や東南アジアへの工場移転の検討が勧められている。特に、国内への工場回帰ではコスト面の問題を改善する必要がある。今回は以前から検討してきた挿入部品と表面実装部品の一括実装によるコストと品質の改善に関する実験経過を説明する。

2. 温度プロファイルの検証

現状の温度プロファイルは部品リード間の温度差を規定したΔTの概念に縛られているが、作業工程・手順重視でもっとも重要なできばえに関しては規定されず、現場における検査工程でも良否の判定基準が示されていない。

1. 温度プロファイルの見直し

はんだ付けは部品間の温度差ΔTで管理されるものでは十分ではなく、基板ランド表面の温度ではんだを溶かし、溶けたはんだの熱で部品リードを加熱することによってはんだ付けすることができる。

図1に、「温度プロファイル事例 ①」を示す。

図1 温度プロファイル事例①
2. 携帯電話の電池基板

薄い基板・紙フェノール・FPCなどの熱量の小さな基板においては、既存の温度プロファイル(プリヒート)ではフラックスが劣化し、ぬれ性などに影響する。また、最近は部品の微細化に伴い基板も薄く小さくなっているため、基板の反りによる品質問題も起こしている。

特に、長い温度プロファイルにおける過熱は、接合界面における金属間化合物の成長を促し、高機能製品の基板実装の経年変化による品質の劣化を引き起こす恐れがある。今後の電気自動車用の高機能基板では、特に温度プロファイルの概念の見直しは重要である。

3. 挿入部品のリフロー化

1. 表面実装対応の挿入部品のリフロー化

耐熱性のある挿入部品のリフローでは、はんだ供給方法が品質に影響し、印刷なのか、ディスペンサを使用するかによって、温度プロファイルの作成の方法について注意する必要がある。

部品への熱影響はヒータの操作方法によって対応することができ、特に治具などを用いる必要はない。

2. 耐熱性中程度(150 ℃前後)の挿入部品実装

部品の耐熱性中程度の部品については、温度プロファイルの調整と簡単な断熱治具を用いることで対応する。

3. 耐熱性の低い(100 ℃以下)挿入部品の実装

耐熱性の低い挿入部品は、断熱治具のみでは対応することができず、放熱治具も必要となる。また、部品の配置によっては、給熱治具も併せて必要となる場合もある。

4. 低融点はんだと治具の使用

自社製品であれば、低融点はんだでの対応も可能である。図2に、「温度プロファイル事例 ②」を示す。下部ヒータのみを使用することのメリットは、下記の通りである。

  • ① 基板上面に印刷されたフラックスの劣化を抑えることができる
  • ② 基板上面の部品への熱影響を抑えることができる
  • ③ ホール内のぬれ性が安定する
  • ④ 耐熱性の低い部品の実装が可能
  • ⑤ 1個の温度プロファイルで多機種の実装が可能で、温度プロファイルの切り替えも不要
  • ⑥ 基板全体の温度差がなくなり、はんだ付け時に不良が抑えられる
  • ⑦ その他

はんだ付けの原理から見た場合、温度プロファイルは画一的である必要はなく、複数の形態や規格があってしかるべきであり、そのでき映えを基準とすることによって、工法や生産性の改善が可能となる。もっとも重要なことは、品質評価基準を確立することであり、作業手順を固定することではない。

図2 温度プロファイル事例②(使用リフロー炉:アントム㈱製『Uni-6116α』)

4. はんだ供給

1. ディスペンサ供給(図3)

ディスペンサは、ランド上にポイント供給することができる、というメリットがあるが、タクトの問題がある。また、はんだ供給の厚みがリフロー時の熱反応に影響し、はんだボールや飛散、ボイド、ブローホールを発生させる恐れがあり、はんだ供給位置・量に注意が必要になる。さらに、はんだ供給面と部品挿入面が異なり、基板の反転が必要になる。

2. 印刷供給

通常のホール・ランドごとのマスク開口では、ホール内へのはんだ量が不足気味になり、安定しないので、ベタ印刷をする。なお、ベタ印刷では、マスク開口形状、サイズ、印刷位置などがポイントで、かつ、印刷面は部品挿入面とする。

(注1…基板裏面への印刷では、リフロー時にはんだは基板下部から上部へぬれ上がるが、ホール内部のはんだ状態は確認することができない)

(注2…はんだ印刷後基板を反転し、部品挿入して治具で部品落下を抑えた後、再度、基板を反転し、はんだ印刷面を基板上面に戻してリフローすることによって、ホール内のはんだのぬれ性を確認することができる。ただし、複雑な機構になると現実的ではない)

図4は、はんだベタ印刷の事例 ①である。

図3
図4

5. フラックスの熱反応特性

各社のフラックスは、その熱反応特性により、温度プロファイルの調整が必要になる。特に、スルーホール内でのフラックスの飛散・はんだボール、ボイドなどは品質への影響が強く、検査工程が煩雑で、挿入部品の配置場所によってはスルーホール内の検査は不可能に近くなる(図5)。

温度プロファイルの適否はリフロー後のフラックス残渣の状態から判断することが適切である。

図5 フラックスの熱反応特性(資料提供:IDEC)

6. 検査工程

ディスクリート部品のリフロー化は、はんだ付けポイントの量が安定するので、検査工程の改善につながり、自動化が可能になる。フローはんだ付けでは、はんだ付けポイントが多く、検査工程に人手がかかり、修正工程の煩雑さも不良の原因解明に問題を残すことになる。不良率の改善は自動挿入機の導入につながり、現場作業者の削減につながる。

7. はんだの選定

はんだの選定はフラックスの選定を意味し、組成に関しては物理的に指定されたものとなり、選定には特に問題となる要素はない。

産業機器ではカタログにない古い型番のはんだを使用していることが多々見られる。これは品質上の問題を避けるために変えていないのであるが、常識的には新しいはんだの方が品質的に改善されていると思われるものの、見直すことはまれである。

はんだの品質特性はフラックスの品質特性でその評価は、

  • ① 化学的品質
  • ② 物理的品質
  • ③ 扱いやすさ
  • ④ その他

になり、特に①の化学的品質が一番の問題になる。

電気自動車が本格化する前に、高密度基板に対応できるよう腐食やマイグレーションなどの化学的品質問題がなければ、新しく使いやすいフラックスの評価を進めることで不良対策を行ったほうがよい。

本来、表面実装での不良率はPPM一桁以下であるはずであり、相変わらず、検査工程において良否選別で同じ不良を検出している現場が多すぎる。

テクニカルレポート一覧