量産現場における工法変更によるコスト品質の改善

実装技術アドバイザー/河合 一男、京都府実装技術研究会/松原 茂樹、アントム(株)/浅野 光一、京石産業(株)/宇根 忍

1.はじめに

コスト競争が結果として部品や基板の品質を落とし、市場トラブルを引き起こしている。単純に部品・基板の購入からモジュール化した製品を導入することで管理コストを抑えることができるが、基板実装を外部委託している企業で品質の確保が難しくなっているというケースが見受けられる。このようなケースでは、改善を提案しても先方のコスト絡みで希望するレベルに至らず、品質的には妥協することになってしまっている。なかでも海外企業に実装を依頼・委託している状況でよくある問題は、下記に集約される。

  • ①モジュール化する工場の品質に対する認識レベル
  • ②受け入れするメーカー側の良否判定評価能力の低下

日系工場はよりコスト削減を求められるが、最低限の品質を確保するために無理をして対応している。多くのローカル企業はコスト優先で目に見えない品質に関しては理解していないようで、5〜10年製品を保証する概念がないのではないかと思われる、ことが多い。高度な製品に関しては世界中から人材を集めているのでそれ相応の製品を作っているものの、一般的な製品向けに関しては、まねをする程度の製品づくりであり、こちらからの指摘・要求がなければ望むべく改善が行われない…ということもある。そうなると、提案・指導に対しても絶えず基板などのランクを落とした対応になる。

2.SMTにおける温度プロファイルの概念の見直し

従来、一般的なリフローにおいては部品リード間の温度差(ΔT)を重視したプリヒートの規格管理が中心になっている。鉛はんだも鉛フリーはんだもおおむね同じ部品・基板を使用しているので、プリヒートは特に部品・基板に対応する必要はなく、温度プロファイルは融点以上の時間とトップ温度がはんだの融点と部品・基板の耐熱範囲を考慮すればよい。

○温度プロファイルの作成

温度プロファイルは基板を加熱し、基板上に印刷されたはんだを基板ランドの熱で溶かす。フローはんだと同じで溶けたはんだで部品リードを加熱することではんだ付けは完了する。はんだが溶ける前にフラックス効果が劣化すると、はんだの粒子は溶けずに残るか半溶融状態でフィレットを形成し、強度不足やぬれ不良及びボイドが発生する。

温度プロファイルは、その波形より上下ヒータの温度とコンベア速度の操作で基板・部品リードへの熱供給状態が異なる。リフロー炉のヒータを操作し、基板下部から熱供給することで基板上面に印刷されたはんだのフラックスを劣化させずに基板を十分に加熱することができる。

図1はヒータ温度とコンベア速度が異なるが、温度プロファイルとしてはほぼ同じような波形を形成している。

図1-Aはエアリフロー炉による通常の温度プロファイルの作成方法で上下ヒータ温度は同じである。

図1-Bは遠赤外線+エアリフロー炉で下部のプリヒート部は上部ヒータより50℃高く設定している。コンベア速度は図1-Aの0.72m/mから図1-Bは0.75m/mに速くしている。波形のみではさほど差は見られないが、不良率は図1-Bは0.5ppmに改善している。温度プロファイルの波形が同じでもヒータ温度とその接合品質に大きな差がある(図2)。

下部からフラックスの劣化を抑えて加熱し、リフロー部の上部ヒータでフィレットを形成することで、フラックスの劣化と部品への過度の熱影響を抑えている。

図1 温度プロファイルは規格数値ではその適否を一概に判断できない
図2【事例】0201チップの温度プロファイルの作成

3.新しい設計基板

今後の普及が望まれる立体構造の実装基板へのリフロー技術を確かなものにすると設計の自由度が上がり、完成品のデザインに大きな影響を与える。マイクロロボット、医療機器、ウエラブル、ドローン、スマートフォン、LEDライトやセンサの筐体の他欧米では車載への採用も検討されている(図3)。

○3D実装(MID)

図4は連結箱型3D基板内部に入れたSOPやチップ部品のはんだ付け実験である。密封された内部の部品は直接リフロー炉の熱風は当たらない状態でのはんだ付けで、従来のΔTの概念に適合しない。また、ランド設計を工夫することで側面や裏面の部品もずれ落ちない。

図3
図4 連結箱型3D 基板内部に入れたSOP やチップ部品のはんだ付け実験(使用機材=アントム(株)製リフロー炉『UNI-6116』)

4.はんだ付け工法変更によるコスト・品質改善/フローのリフロー化、手はんだ及びロボットはんだのリフロー化

1.リードリフロー

最近、大手企業でもコストの大幅な改善から本来フローはんだ付けで行ってきたコネクタなどをリフローで実装する方向に変わってきている。通常の耐熱性のある部品に関しては特に問題はないが、多層基板のホール内部でのフラックスの暴発によるはんだボールやボイド及びブローホール・ピンホールには注意が必要である。はんだの印刷は、検査工程まで考慮すると、印刷面を基板上部にするか下部問題にするかは検討の余地がある。また上記のボイドやブローホールなどの対策は印刷形状や位置で対応できる(図5)。

2.耐熱性の低い部品のリフロー化

問題は耐熱性の低い部品で、はんだの融点温度の220℃は過剰な熱供給になる。対応としては、下記の方法を単独又は複合的に用いる。

  • ①低温はんだの使用
  • ②下部ヒータの活用
  • ③耐熱性・断熱・放熱冶具の活用

部品の耐熱性が120〜130℃程度までは断熱冶具での対応になるが、100℃以下になると放熱冶具も同時に組み込まないと対応するのが難しくなる。

上部ヒータをすべてOFFにしても炉内の雰囲気温度はかなり高くなる(270〜290℃)ので、耐熱性と共に断熱・放熱特性をもった冶具が必要になる(図6)。京都府実装技術研究会では紙フェノール基板の電源基板についても実験済みで、さらに大きな基板でのリフロー化も検討しているが設計の協力も重要な要素になる。冶具の開発については部材(基板・部品)の提供が必要になる。

図5 【事例】FPC のコネクタ実装。コネクタのピン間が狭いためにリフロー以外でははんだ付けできない部品
図6 【事例】FR4 の小型電源基板

5.手はんだ・ロボットはんだのリフロー化

基板ランドの熱ではんだを溶かす方法は、従来手はんだ付けやロボットでのはんだ付けにも応用できるが、こちらもコスト削減効果はかなり大きい。特に手はんだ付けは人件費の関係で海外での作業が主であるが、単純作業のため、作業員の定着率が悪い上に良否判定のできる指導者がいないなど、多くの問題を抱えている。特に一定量のはんだがあれば検査を通るので数年後に市場トラブルを起こすことが多い。受け入れ側にも手はんだ作業を行う熟練者が少なくなり、受け入れ検査の能力が落ちている。冶具を用いる場合が多いので、量産部品が対象になる。

  • ■メリット
    • ①はんだ付け作業員が不要
    • ②単純作業ロボットが不要になる
    • ③高価な鏝先が不要(こて先コスト、こて先交換による作業中断がなくなる)
    • ④飛散、はんだボール、イモはんだなど品質の改善
    • ⑤手はんだと異なり、焦げ付いたフラックスによるリード間に汚れがない
    • ⑥その他
  • ■デメリット
    • ①冶具が必要で小ロット作業には向かない
    • ②皮膜内部へのはんだのぬれ込み
    • ③冶具の作成コスト
    • ④その他

図7は、FR4基板と紙フェノール基板での実験事例である。皮膜撚線は皮膜の耐熱性と皮膜内部の撚線にはんだがぬれ込み過ぎて撚線が固くなり、断線しやすくなることである。

図7【事例】皮膜撚線のはんだ付け

6.おわりに

工法変更に必要な冶具の開発にあたっては、設計の協力が今後のポイントになる。現在引き続きの情報発信のための実験部材の提供をお願いしている。

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