改善活動事例 海外工場

実装技術アドバイザー / 河合 一男

昨年、現場改善の依頼を受けて訪れた、海外の国際的大手企業や中小規模の日系などの、それぞれのローカル工場の指導の成果が次第に上がってきている。半年を過ぎてもその品質は安定していて、どうやら初期の目標数値は達成できたようである。ものづくり現場における不良は、書籍やVTRで勉強するだけではなくならない。実際に現場で作業をし、自分の目で確認しなければ身につかない。現在、筆者は3回程度現場で指導することで不良率:ppm1桁以下を実現しており、その後は、簡単な不良の解決であればほとんどメールのやり取りですんでしまうようになる。海外工場における一番大きな問題点は現場の人材育成である。いろいろな指導を受けた現場作業員も、辞めてしまったり、入れ替わったり、担当技術者の異動などによって元の木阿弥に戻ってしまうことで、たとえば文書に書かれた作業手順は比較的遵守されるものであるのだが、その規格手順どおりに作業することのみが目的になってしまって、数値管理が厳しくなればなるほど結果については無関心になり、責任の所在が不明確になってしまうものである。

指導にあたって考えるべきポイント

指導の際に重要なことは、良否の判定基準と確認方法を、現場担当者に、簡単な実演を通して理解させることである。そして、品管・生産技術についてその根拠の証明データを作成準備し、いつでも当該製品の問い合わせについてジャッジ及び回答ができる体制を整えることである。

国際的に展開している海外の大手会社は、目に見える表面的な部分は日系の工場となんら変わるところはないが、技術者は技術的な指示をするだけで、その結果報告だけを得る、というケースが多い。つまり、現場を直接指導する能力・経験がない場合が多く、指示通りの作業でなぜ結果が出ていないのかという点の解析は不十分なものになっている。特に、技術者を補佐し、実験・解析データを上げるべき現場担当者の力量が非常にばらついており、現場から間違ったデータや故意に作成されたと思われるデータが上がってきても、技術部門はただそのまま鵜呑みにしてしまっている、という場面をみることも多い。

海外大手企業の工場は最新の設備を導入しているので、ラインを見学してもその技術力はわからない。海外工場を評価する場合は、通常は、作業時における身だしなみや静電対策から説明がはじまり、印刷 ⇒ マウンタ⇒ リフロー炉⇒ 検査機器と説明を進めていくのだが、海外企業は日本の工場と違い、現場作業と技術はその役割が明確に分かれているので、見るべきポイントは、結果としての検査後の不良内容と修正作業の評価である。ラインシステムや管理体制及び説明が満足できるものであっても、実際の運用能力が十分でなければ、発生した不良への対応が遅れてしまうことになってしまう。

発生した不良とその修正内容が劣ったものとなっている現場は、適度な対応能力が伴っていないということを証明しているようなものである。なぜ修正工程があるのか、そしてどのような修正作業をしているのかということを見ることで、現場の実力をほぼ理解することができる。

必要なのは、日常の良品解析が十分にできていることである。また、日々現場を見ている現場班長クラスの在職年数とその能力も合わせて評価することによって、問題発生時の対応能力も推測することができる。設備の検証はその後の確認でも十分である。

現場では、共同作業で実際に作業させ、合わせて手本を見せることで体験・確認させることにより短期間に効果を得ることができるが、それを持続させるための簡単な再現実験による確認と評価方法を示すことで機種によるばらつきのない安定したラインが形成される。特に、基板や部品の良否判定の見きわめは重要で、簡単に証明できるようにしておかなければ大きな時間的ロスが生じてしまう。

図1に示した事例は、使用こて先形状が不適切で熱不足を起しているため、図1左端と中央のフィレットは修正時のはんだが二層である。図1右端には段差がみられる。はんだは十分に溶けているので、熱容量の小さなこて先(ペンシルタイプ)で高温作業しているためにフラックス効果が失われた結果である。フラックス効果があれば、右端のフィレットの余分なはんだはこて先に吸い上がりはんだ過多による段差は残らない。また、高温作業ではこて先のはんだめっきが失われ、酸化するために、溶けた余分なはんだはすべて基板上に残り、はんだボールや基板・部品損傷の原因にもなる。

また、図2では、こて先の一部がリードに触れており、はんだが付着している。そのためフラックス効果が失われてしまい、光沢と滑らかさがない。また、この作業現場では通常とは逆に、こてを固定して、基板とはんだをこて先にあてている。こて先は高温で、かつ酸化しているので、余分なはんだはこて先に吸われず、はんだ弾きを起しており、また、飛散やはんだボールになっている。静電対策などは適切である。撚り線のはんだ付けの場合は基板を動かせる範囲が小さく、ぬれ性が十分確保できにくい。

さらに、糸はんだの巻きが悪いとからまる可能性があるなど作業リズムを壊してしまう。このように、はんだ付け前の部品管理が悪い。現に吸煙器周りにフラックスの飛散が多く、この作業方法が不適切であることがわかる。製造現場がはんだ付けの基本を理解しないままに作業してしまうと、起こるであろうと予測される市場不良について理解することができない。

日本の中小工場は、依頼先の規格範囲以内でも、より結果を重視した作業に取り組んでおり、工場独自の対策(ノウハウ)が施されている。そこで、結果を要求する依頼先には結果を、また、手順(規格)を重要視する依頼先には手順を優先している。

現場作業でも前後の流れをきちんと理解しながら進めているので、海外の現場ように細かいところまで指示するよりは結果を重視して、不良対策に関しての助言・支援する方が結果として負担が軽く、かつ早く改善できるが、最近では海外も国内も同じレベルとなっていることから、画一的で細かな要求・指示をしてしまいがちである。問題に関しては、現場から依頼先に改善・提案されているが、受け入れていただけていない場合も多くみられ、本来の現場の経験が生かされていないケースもある。

日系大手では国内に量産工場が少なくなっているため、量産現場の技術力が落ちており、これによって十分なノウハウを得られていない。その結果として、検査工程や数値管理や報告書を要求しがちで、管理体制の強化によって改善活動よりもレポート提出を優先するようになっている。

現状の海外工場では、絶えず変化する設計に十分対応できる技術力は備わっていないので、国内の中小企業がもつノウハウを活用し、トータルでのコスト改善を図り、かつ技術者の後ろ向きの作業負担を減らして、本来の創造性活動に向けるべきである。

海外の大手工場では、依頼先の要求を満たす検査機器などの投資は完全であるが、実際には、現場ではそれらを使用せず、工程から省いている場合が多く見られる。

筆者は以前、せっかくN2リフロー炉が導入されていても使用されず、インラインのX線のスイッチも切られている、という現場を見たことがある。

図1
図1

海外工場での観察ポイントと改善効果

以下に、海外工場におけるはんだ実装作業の事例を示す。はんだ付けは母材側(ランド+リード)の温度がはんだの融点+ 50℃以上になることでスムーズにぬれ広がる。こて先温度が高くても、基板側への熱伝達が悪ければぬれない。高温のこて先はフラックスを劣化させ、逆効果になってしまう(図3 ~図5)。

フレット光沢がない
はんだ量が多くマイグレーションに注意が必要である
この気泡はボイドや熱不足の恐れあり
こて先温度を下げてフィレット光沢が改善されている
こて先形状の変更によるこて先温度とはんだ量を削減
リード先端を切断していくと、はんだが溶け被さっているのみで、撚り線内部はぬれていない。反対側も、撚り線内部はぬれていない。※撚り線は、ぬれ性不十分のまま使用すると市場で抵抗による発熱断線にいたる事故が起こる恐れがある。観察ポイントとしては気泡、はんだ過多によるフィレット形状不良、フィレット光沢の異常に注意する。

こて先と作業方法を変更することで、フィレット形状とぬれ性を改善できる他、反対側のぬれ性も改善する(図6)。また、はんだこてと、こて先形状を変えることによって、こて先温度を下げても十分な熱供給ができるようになり、フラックスの劣化も抑えられることによってぬれ性が改善する。さらに、こて先にはんだ溜まりができるので、送るはんだ量も少しですむ(図7)。こて先にはんだ溜まりができると、マイクロディップ槽の効果で撚り線内部のぬれ性が改善される。こて下に供給されたフラックスが、こて先の熱で失われることなく、またすべてがはんだ付けに活用され、ぬれ性が改善すると同時に飛散対策にもつながる。また、ランド側に面接触による熱供給になるので、こて先温度を下げても十分な熱供給ができ、作業タクトを落とさずにすむ。こて先にすでに溶けたはんだが残るのでこれを無駄なく利用できるため、新しく供給するはんだは従来より少なく、主にフラックスを供給するイメージで作業すると楽で特に速く動かさなくても結果として作業効率も改善されることになる。図8 ~図9は本来、リードが短く、設計的な無理を現場に強いている問題のあるはんだ付けで、最近は基板や部品が小さくなりよく見られる基板であるが、短期間で品質が改善されている。

図6
図7
図8 はんだ量過多と熱不足の事例。こて先温度が高くても、先端形状が適切でなければ熱供給がばらつき、ぬれ性は安定しない。

図10のようなリードのはんだ付けは、こてとリードとはんだと手が3本必要で、通常はすくいはんだ、または予備はんだ後に、こて先ではんだを再度溶かしながらリードを埋め込むようにする、いずれもフラックスがかなり失われた状態でのリード付けになるので、接合品質にばらつきがおこり、図のような設計では市場で剥離を起こす可能性が高くなる。当初は、リフローと手作業による予備はんだ ⇒ 鏝先ではんだを溶かしながらリード押し込む、という手順で作業していたが、これではフラックス効果が失われやすく、ぬれ不良の発生がみられた。そこで、作業手順、並びにこて先と先端形状の変更によって、リードとはんだを同時にはさみ込み、作業タクトと品質を同時に改善している。新しいはんだごて(図7)では十分なフラックス効果を得られ、こて先温度を高くする必要はないので、はんだ付け品質は保持される。このように、道具を検討することで作業工程を簡略化し、またコストと品質も同時に改善できるので、生産性を、各工程ごとではなく検査工程・修正工程までを含め、トータルで評価することが重要である。本来あるべき姿とことなる結果が見られた場合は、トータルのバランスを重視して、作業条件の設定と検査ポイントを決める。図11は、こて先のあたるリード側パターンでの放熱と部品側パターンからの放熱による熱不足からくるホール上がり不足になっている。リード側(図11左)のはんだ付け部は良好に見えるが、部品側(図11 右)はパターンの影響で熱不足のためにホール上がりが不十分になっている。ベタパターンが繋がっているスル―ホールのはんだ付けは、部品リードよりベタパターンに熱供給できるこて先と、こて先よりはんだを先に供給するはさみはんだ方式で作業し、改善する(図12)。特に、飛散対策にははんだを先に送り、その上からこて先ではんだを挟み込むはさみはんだが有効である。手作業の指導は、従来のように型のみを教えるのではなく、フラックスと熱移動の基本を教えた後、少しずつ条件を変えた場合のできあがりの変化を体験させるべきである。量産現場では、たえず基板も部品も設計も変わり、かつ、はんだの変更指示もでるので固定化した作業では必ず市場不良が発生してしまう。また、はんだ付け作業員がすぐに変わるので、指導方法や管理方法も再検討すべき段階にきているといえる。手はんだには、ばらつきが出る要素が多いので、作業方法を固定するよりもできあがりを重視した作業方法を練習・体験させる方が、早く、安定した品質が得られるようになる。また、新人にいきなり作業方法を教えるのではなく、最初は全員を一度、品質検査工程に従事させて、検査できる目を養った後にラインに配置すると、修正作業も同時に進められ、また次工程へ不良品を出さずにすむなど、生産効率も上がることになる。

図9 こて先温度が低くても、先端が適切であればぬれ性は安定し、無駄なはんだも必要なく、はんだボールなども発生しにくい。
図10 短く硬いリードを短時間に大量にはんだ付けする。撚り線のぬれ不足をおこしやすく、市場不良発生原因となる。
図11
図12 こて先底面(こて先の変更)でランド部に熱供給し、ホール上がりも改善する

海外工場のリフロー改善事例

以下に、海外工場におけるリフロー工程の改善事例を示す。ローカルな現場における、エアリフロー炉の熱風によるフラックスの飛散とはんだボールの発生、及びぬれ広がり不足は、ボイド発生の要因でもあり、また、光沢不良ではぬれ性のみならず、即X線でのボイド観察を要するが、海外工場では通常は評価されていないのが実情となっている。フィレットの光沢と形状、及び滑らかさはボイドを判定する場合の重要な要素で、最初に外観検査で設計上問題となりそうな個所を設定し、X線観察することで検査工程が効率化することができる。図13 ~図17に、改善前と改善プロファイルの採用後の比較写真を示す。ボイドの発生は以下のようなメカニズムが考えられる。大きな熱が加えられた後の冷却が遅れる ⇒ フィレット光沢失われる ⇒フラックスの劣化が起こる ⇒ はんだの流動性劣化が起こる ⇒ ボイドが発生する

図13 ぬれ広がり不十分 → 改善プロファイル採用後 ぬれ広がり不十分 → 改善プロファイル採用後
図14 改善前のフィレット光沢 → 改善後のフィレット光沢 改善前 → 改善後
図15 光沢不良 → 改善プロファイル 光沢不良品のはがし観察 → フラックスの劣化によるボイド
図16 フラックスの飛散とはんだボールが発生している
遠赤外線炉へ変更後の様子
ぬれ広がり不足(フィレット形状歪み)
ぬれ性良好
図17 光沢不良 → 改善プロファイル採用後 光沢不良 → 改善プロファイル採用後

フラックス残渣によるボイドは耐熱性が高く、ガス化しにくいフラックスなので、変更を検討する必要がある(図18)。また、BGA の観察では部品段階で光沢が失われたボイドもあるので、形と表面の滑らかさの観察も重要となる(図19)。図20は、ボイドの検渣が必要なフラックス残渣状態である。サイドボール対策のはんだ量は、ぬれ不良と強度不足につながる。図21の①、②は、バック及びサイドフィレット不足を起している。③は部品の位置ずれと光沢不足、④はフィレット形状及び光沢不足を起こしている。図22の事例は、はんだ量が多いので、ぬれ性は良好に見えるものの、基板上の部品でフラックス残渣の熱反応不足となっている。量産現場での温度プロファイルの適否の判定はまずフラックス残渣の形状観察からはじめ、最後にボイドの確認で決めるようにする。

図18
図19
図20 ボイドの検査が必要なフラックス残渣状態
図21
図22 図23

図23の事例は、一応は良品判定されているが、前フィレットが少ないのはブリッジ対策としてはじめからはんだ量を削減しているせいだと思われる。ランド幅とリード幅が同じでサイドフィレットはない。接合強度はバックフィレットでのみ確認される。ランド上のはんだ弾きからみてはんだ量不足となっているのがわかる。

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